大島の椿油-生物多様性を多様なままに-

秋が深まってまいりました。感染対策の規制も少しずつ緩和され、旅好きが多い生きもの屋のはしくれである私も、そわそわと旅心が疼いてきて、先日伊豆大島に行って参りました。

【椿油のための椿園はない】
大島で有名なもののひとつに椿油があります。女性が髪のケアに使うイメージが強いですが、かつては主に食用だったそうです。大島の街中にひっそり佇む椿油の製油所にお邪魔しました(※1)。看板もなく大変入りにくい店構えなのですが、入ってみるととても気さくなご主人が出てきて、椿油の製法や歴史、美味しさなど、何から何まで時間をかけて説明して下さいました。
その中でとても意外だったのは、大島には椿油のための椿園というものはなく、伝統的に、島の人々が拾って製油所に売りに来る椿の実を使っていて、多くは耕作地の周囲に巡らせた椿の防風林の副産物だそうです。伝統的にそうであっても、商業ベースに載せるためにはどこかの段階で、ある程度安定的に生産できる圃場栽培に移行していくものですが、椿は植えてから立派な実をつけるまでに10年以上かかることもあり、そうした商業化には至らなかったようです。

椿油_製油所

製油所にならぶ圧搾機などは大正時代からのもの


【風土が伝統文化と特産物を育む】
さて、いやしくも植物屋の私には以前から疑問がありました。椿油の原料である「ヤブツバキ」はとくに伊豆諸島の固有種ではなく、常緑広葉樹林帯のことを「ヤブツバキクラス域」と呼ぶくらい、暖温帯ではありふれた植物で、東京のその辺の林でも見られます。なぜ大島だけが椿油の産地なのでしょう。お話にあった「椿の防風林」に大きなヒントがありました。椿がこうした目的で利用されてきたのは、もともと大島の厳しい風土に椿がよく育っていたからと思われます。確かに、東京で見る野生のヤブツバキはシイやカシなど常緑樹林のなかの低木として存在することが多く、花や実のつきは疎らです。いっぽう、大島も常緑樹の高木林が卓越していい気候帯ですが、実際には強い海風と、30-40年周期と言われる噴火による植生や土壌の攪乱のため、安定した常緑樹の高木林は限られていて、藪が多いです。そういった藪では文字通り、ヤブツバキの光沢のある葉が陽の光にさんさんと輝き、たくさん実をつけている様子が見られました。こうした大島独特の風土が「大島の椿油」というブランドの礎となっていのです。火山は人々を苦しめるだけでなく、他の土地にはないこうした賜物ももたらしてきたのです。

【椿油づくりに透ける持続可能性】
椿油が大島の人々の「暮らしの副産物」であったことはとても感慨深いです。かつて私達日本人は皆、暮らしの場に生じるたくさんの生物多様性の副産物をほとんど余すところなく利用して暮らしてきました。結果として生活の場には豊かな生物多様性がありました。しかし、いまでは生活に必要な食料も道具も、全てお金で手に入り、そういった恩恵をあてにすることもなくなりました。生活の場に入り込む動植物のほとんどは雑草雑木、害虫害獣とひとくくりに排除され、暮らしの場の生物多様性は失われました。
いっぽうで、お金で取引される製品やその原料の生産される農地もまた、単一の作物を効率よく生産することに特化して集約的に管理され、やはり生物多様性からかけ離れた空間となりがちです。たとえば、今では私達の生活のあらゆる場面で利用されるパーム油の生産現場では、生物多様性の高い熱帯雨林が切り拓かれ、見渡す限りのアブラヤシの農園に置き換わっています(※2)。
SDGsで世界の持続可能性が検討されるようになりましたが、経済のグローバル化は続き、大量生産と効率化が前提の議論が今も続くことに、なんとも言えない居心地の悪さを感じていました。持続可能な社会に必要なのは、防風林の副産物としての椿油のように、生物多様性を多様なままに利活用する技術や方法論の見直しではないのか。その思いに、椿油が背中を押してくれたように思いました。
製油所を見学したあと、三原山方面へのドライブの道すがら、道路際で椿の実を拾っている女性に会いました。「製油所にもっていくのですか?」と声をかけてみると「そうなの。今日は美味しいお寿司でも食べようと思って」と笑顔で返してくれました。かつて私たちの暮らしはこんなふうに、季節や時間や場所によって異なる様々な生物多様性の恵みを、少しずつ細やかに享受する生活であったと思います。

(代表 高木 圭子)

※1 椿油の高田製油所
http://www.tsubaki-abura.com/

※2 パーム油 私達の暮らしと熱帯雨林の破壊をつなぐもの(WWF)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/2484.html

 

秋とイナゴの話

8月の猛暑が嘘のように、今年も秋がやってきました。モズの声や、キンモクセイの香り、ハロウィン商戦と、ひとそれぞれ秋の感じ方はありますが、当ブログの過去の記事を紐解いてみると、カヤネズミの球巣や川に放たれた金魚、枯葉にくるまったコウモリなど、生きもの屋たちの秋の感じ方はひと味違うようです。
ところで、「秋」という字は「のぎへん」に「火」という字を書きます。実りの季節に穀物を示す「のぎへん」はしっくり来ますが、なぜ「火」なのでしょう?植物屋としては、山が燃えるように紅葉するからかな、と思っていたのですが、調べてみるとちょっと違うようです。

【秋と火の意外な関係】
諸説あるようですが、一説には、秋はバッタ類が大発生して収穫前の穀物を食い尽くしてしまうことがあるので、バッタを焼いて豊作を祈ったところから来ているそうです(※1)。そういえば、パール・バックの代表作である「大地」のなかには、主人公の王龍がバッタの大群を追い払うため、半狂乱になって田畑に火を放つ、印象的なシーンがありました。中国では、全てを食い尽くしてしまうバッタ類の大発生は、有史以来、「蝗災(蝗害)」と呼ばれ、水害や干ばつと並ぶ災害と捉えられていたそうです。そういった事情もあって、漢字の祖国である中国で生まれた「秋」の字は、「のぎへん」に「火」だったのですね。紅葉や実りといったのどかで豊かな秋のイメージとは少し違って、いかに秋の収穫を確保して冬を生き延びるか、といった気迫や切実さが感じられます。

【「蝗」はイナゴかトノサマバッタか】
しかし、そういった現象は、小説や映画に描かれることはあっても、今ひとつ実感がありませんでした。それもそのはず、狭い国土の大部分が山林で覆われる日本では、一度に空を覆い尽くすほどバッタ類が大発生するような広大な草原はなく、また高温多湿でバッタ類の病害が多いことも手伝って、大陸でみられるような蝗災はほとんど生じなかったようです。日本で稲に害を与えるバッタ類はせいぜいイナゴの仲間くらいだったので、日本では「蝗」は「イナゴ」と読まれ、こういった現象は「イナゴの大群」と訳されることが多いです。しかし、実際には中国で災害を起こしていた「蝗」は、主にトノサマバッタの仲間だそうで、日本では水田より草むらなどにいて、稲作に影響を与えない種がほとんどです。

イナゴ類

刈られた稲にしがみついていたイナゴ類 いまでは地域によっては絶滅危惧種になることも

  • 【気候変動と蝗害】
    その、小説や映画の世界の話だったバッタの大群のお話が、今年はメディアでもかなり話題になりました。2020年の初頭から、東アフリカ、アラビア半島、さらにはインドまで、サバクトビバッタの群れが雲のように移動しながら作物を食い荒らし、数十年に一回といった甚大な被害をもたらしています(※2)。こうしたバッタ類は、普段は乾燥しているステップ気候の草原に、大雨が降って植物が急に繁茂した場合に発生する場合が多いことから、いわゆる気候変動の影響の一端として捉える向きもあるようです(※3)。
    アフリカや南アジアなど遠い国のお話ではありますが、海外で蝗害に起因する食料危機が生じれば、世界の食糧安全保障に暗い影を落とします。食糧自給率が40%に満たない日本(※4)にとっても、他人事とは言えない深刻な現象として気がかりです。
    また、バッタではありませんが、今年は西日本を中心に、稲作の代表的な害虫であるトビイロウンカが大発生して甚大な被害がでているようです(※5)。今年の梅雨の長雨と夏の高温少雨傾向が原因として指摘されており、これも気候変動との関連が気になるところです。
  • (代表 高木 圭子)

※1 雷乃収声(暦生活)
https://www.543life.com/seasons24/post20200923.html
※2 サバクトビバッタ(FAO駐日連絡事務所)
http://www.fao.org/japan/portal-sites/desert-locust/en/
※3 バッタ大量発生、数千万人に食糧危機の恐れ、東アフリカ(NATIONAL GEOGRAPHIC)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/022400121/
※4 日本の食料自給率(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html
※5 「過去最悪だ」ウンカ大発生で稲作大打撃 肩を落とす生産者(西日本新聞)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/646005/

盛夏と戦争と短歌

今年も暑い暑い夏がやってきました。ヒロシマ、ナガサキ、そして終戦。子供の頃から、8月は戦争のことを考える機会が多かったように思います。

【身近な戦争体験】
一昨年、103歳で亡くなった大叔父は、かの悪名高きインパール作戦の数少ない生還者でした。第二次世界大戦中、英国が掌握していたインド北東部の都市インパールを、隣国ビルマ(現在のミャンマー)から攻略しようとした作戦です(※1)。補給を度外視した精神論で強行された結果、誰一人インパールにたどり着かず、実に3万人の戦死者(多くは病死や餓死)を出したといわれます。大叔父は生前、多くを語りませんでしたが、体験記を遺しました。多くの短歌を交えたその内容は、穏やかな大叔父からは想像もつかない壮絶で悲惨なものでした。食料も医療物資も尽き、何日も続く大雨のなか、2000m級の峻厳な山々を徒歩で越え、幅600mの河を渡る撤退の道すがら、多くの仲間が飢えと病に力尽き、手榴弾で自決する爆音を聞くこともあったそうです。たくさんの死をどうすることもできずに見届けてきた大叔父は、その命の数だけの人生の重みを背負って生きていたのかもしれません。

短歌

遺された短歌と体験記

 

悲惨な戦争を身近な人の体験として知ると、二度とそんなことが起きてはならないという思いを新たにします。しかし、しがない生きもの屋集団である私たちに、できることはあるのでしょうか。

【生きもの屋が考える戦争と平和】
戦争の原因は、現代ではとても複雑ですが、生物多様性の劣化は間違いなく戦争リスクのひとつだと思います。私たちはみな、生物多様性の恩恵に生かされていますが、地球が有限である以上、その恩恵も有限です。全ての人々に行き渡らないことが、奪い合いとしての戦争のリスクになりますし、環境破壊により生物多様性の生産力が損なわれれば、リスクはいよいよ増大します。
すでに人類全体の現在の暮らしを支えるのには、地球が1.7個必要と言われています(※2)。毎年0.7個分前借りしている状態ですから、いつか破綻すると考えるのが合理的です。さらに、世界中の人が日本人と同じ生活水準を維持するためには地球が2.8個必要です。

【バイオキャパシティを高める】
このような資源の奪い合いに対しては、1.環境負荷を下げる、2.土地の生産性(バイオ・キャパシティ)を高める、3.これらを支え、つなぐことが必要だといわれます。もっとも大切なのは、限りある資源を全人類で分け合えるよう、今多くを消費している私たちひとりひとりが一地球人として、環境負荷を下げ、少ない資源とエネルギーで「地球1個分の暮らし」を実現することに違いありません。いっぽうで、私たちが生きもの屋として担うべき使命は、生物多様性を保全し、土地の生産性を高める技術的な方策を追及していくことだろうと思います。そして、生物多様性の大切さをいろいろな機会に伝えていく(支え、つなぐ)こともまた、大切だと思います。

(代表 高木圭子)

エコフット

※2より引用

 

※1 無謀と言われたインパール作戦 戦慄の記録(読むNスペ、NHK)
https://www.nhk.or.jp/special/plus/articles/20170922/index.html

※2 あなたの街の暮らしは地球何個分?(WWF)
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4033.html

名刺が変わりました

6月の代表の交代に伴い、肩書きが変わる社員が多かったのもあり、心機一転、名刺をリニューアルしました。当社の名刺といえばおなじみの、ペットボトルから再生されたプラスチックの名刺でした。半透明の独特な質感が先代の趣味らしくスタイリッシュで、それでいて水濡れに強いことも、野外で名刺交換をする機会が多い私たちにはメリットでした。また、名刺のために新たな資源を消費しないリサイクル素材を使用したのは、いやしくも「環境」をその名に冠する会社としてのささやかな環境配慮でもありました。

プラスチックスマート※1が求められる時代
しかし時代は変わり、何にでも便利に使われるようになったプラスチックは、いまや陸海問わず地球を埋め尽くし、様々な問題が顕在化してきました。一旦自然界に放出されると、長い間分解されることがないプラスチックは、いずれ新たな地質年代区分として地層に刻まれるとまで言われています※2。もはやリサイクル素材とはいえ、その必然性ないものをプラスチックで作り続けることが環境配慮とは言えなくなってきました。

プラスチックと竹の因縁
新たな環境配慮型の素材を求め、国産の竹を紙に加工した「竹紙」を採用することにしました。

名刺

竹林はもともと、民家の裏などに植えられたもので、軽くて加工性の高い素材として、籠などの生活資材や建材、農具や漁具など、かつては生活や産業のあらゆる場面で活用されてきました。しかし、こうしたものの多くは現在ではプラスチックに置き換えられ、竹材の需要は減り、多くの竹林は管理の担い手を失いました。管理されなくなった竹林は荒廃し、周囲に広がって、生物多様性や防災に関わる様々な問題をひき起こしています。
大量生産されているプラスチックが世界中で環境問題を引き起こしている一方で、利用されなくなった竹林もまた、別の環境問題を引き起こしているのです。このような状況から、竹材の活用を見直し、紙の原料として活用したのが中越パルプ工業(株)の「竹紙」です。100%国産の竹を原料としています※3

変化に対応するしなやかな姿勢
ペットボトルのリサイクル素材を使った名刺は、私たちなりの環境配慮でした。しかし、気がつけばそれも、少し時代遅れになっていました。このように、私たちをとりまく環境問題は日々新しい情報や課題が提示され、昨日の正解が今日の不正解となることもしばしばです。大切なのは、ある時点の情報から導いた結論に固執することなく、新しい情報をとりいれて常に再検討していく柔軟な姿勢だと思います。そんな、自らへの戒めをも込めて、今回、永く親しんできたプラスチックの名刺から、新しい竹紙の名刺へとリニューアルした次第です。
この名刺をお渡しするご縁のできた方々と、日本の竹林が抱える問題と可能性について、共に考える契機になるようなことがあればとても嬉しく思います。

(代表 高木圭子)

※1 プラスチックスマートPlastics Smart(環境省)
http://plastics-smart.env.go.jp/

※2 新たな地質年代「人新世」 国際地質学会議で採用検討 南ア(AFPBBニュース)
https://www.afpbb.com/articles/-/3099134

※3 竹紙(中越パルプ工業株式会社)
http://www.chuetsu-pulp.co.jp/sustainability/activity/takegami

 

 

代表就任のあいさつ

このたび、新里達也の後任として、代表取締役に就任いたしました、高木圭子と申します。
創業より三十余年の永きにわたり、新里はじめ弊社に賜りましたご厚情に、改めて御礼申し上げます。

2002年夏の入社時の面接で、口髭を蓄えた、生きもの屋とは思えない伊達な社長(新里)にぽかんとしたのが昨日のことのようです。以来、山野を歩き回るたくさんの機会に恵まれ、出会った多くの生きものや美しい景観、呆れるくらい生きもの好きなスタッフとお客様に育てられ、気がつけばここにいました。

今般の感染症拡大に代表されるように、いま社会は大きな変化のうねりのなかで課題が山積しています。こうしたなかにあって、荒波にのまれない柔軟な舵取りはもちろんのこと、社会の一員として、私たちの技術を様々な社会課題の解決に役立てていきたいと切に願っています。そのために、これまでの活動範囲にこだわることなく、多くの人たちと手を携えていければと思います。

コロナ禍のくすぶるなか、荒波の船出となりましたが、今後とも変わらずお引き立ていただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いします。

荒波の朝日

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  1. 代表取締役 高木圭子

りょうはほのき【冬季】

2020年もスタートして早一ヶ月あまり。遅ればせながら、本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

さて、あまり面白いネタはないのですが、1月17日付の環境省の報道発表資料で、次の記事が掲載されました。

<「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律施行令の一部を改正する政令」の閣議決定について(国内希少野生動植物種の指定等)>

いわゆる「種の保存法」について、一部改正が行われるというものです。そして、本日2月10日より施行されることとなりました。

この法律は国内外の希少な野生生物種の保存のため、動植物種ごとに法的な規制を設けており、違反すれば当然、罰則が科されます。
「りょうはほ」にかかわる内容としては、「特定第二種国内希少野生動植物種」に「トウキョウサンショウウオ」が追加されたというトピックスがあります。
内容だけ聞くと分かりにくく、調査にも許可が必要なの?と考える方もいると思うので、この機会に整理してみました。

まず、国内の希少野生動植物種には3つの指定カテゴリーがあり、以下のように定義されています。

国内の希少野生動植物種の3つの指定カテゴリー

次に、それぞれの指定カテゴリーにかかる規制について、まとめると以下の表のようになります。

3つの指定カテゴリーにかかる規制

結論としては、我々が業務で行う調査は販売・頒布目的ではないので、規制の対象外となります。

今回、特定第二種国内希少野生動植物種に追加されたのは「トウキョウサンショウウオ」「カワバタモロコ」「タガメ」の3種です。
これらの種に共通するように特定第二種は、おもに里地里山など身近に生息・生育しており、減少が著しい動植物が対象になっています。
近年、「トウキョウサンショウウオ」の「卵のう」や「生体」が乱獲され、インターネット上などで販売されていることが、保全の観点から問題となっていました。これらの行為対しに規制を設け、抑止するのが大きな目的と考えられます。

トウキョウサンショウウオの卵のう(水中写真)

トウキョウサンショウウオの卵のう(水中写真)

 

それでは、具体的にはどのような行為が規制の対象になるのでしょうか?

規制の対象

「商業目的」というのは次のフローのように考えると分かります。
金銭を得なくても、譲り渡しの数が多くなると「頒布」にあたり、規制対象になってしまいます。

フロー

生きものを扱う身としては、こういった情報も日々更新していかなくてはなりません。
2月に入ると、トウキョウサンショウウオの産卵時期が始まります。
法律を守って、いつまでも身近に多様な生きものが生息できる環境づくりを目指していきましょう。

【参考:環境省HP https://www.env.go.jp/press/107622.html】

両生類・爬虫類、哺乳類担当 釣谷洋輔

りょうはほのき【秋季】

気がつけば、すっかり秋になってしまいました。
動きやすくなってきた季節には近所の草むらにフィールドサイン探しに行ってみては如何でしょうか。
河川敷や谷戸に広がる草地には色々な哺乳類が住んでいます。日本最小のネズミ、カヤネズミもその一員です。
夏から冬の間に子育て時期を迎え、昼間でも草むらの中で活動していることもあります。
イネ科のヨシやオギ、ススキ、チガヤの他、湿地に生えるスゲなどに葉っぱをボール状に編んだ球巣(きゅうそう)を作ります。
水田の中のイネにも巣を作っているのを見かけたことがあります。
葉先を細かく裂いて編み込まれて作られる球巣の大きさは直径10cmほど。
巣の高さは地上付近から2m以上と様々ですが、30cm~1mくらいの間が最も多いと感じています。
あまり低く作りすぎると、地上の天敵であるイタチやキツネ、ヘビなどに見つかってしまい、高く作りすぎるとタカ類やカラス、モズなど空の天敵に見つかってしまいます。
絶妙な高さにあり、うまくカモフラージュしているので目が慣れないと見つけづらいかもしれません。
平日は仕事として探していますが、とある秋の休日にも郊外の草むらに探しに行ってみました。
カヤネズミの巣

早速ひとつ見つけました。作りたては青い葉っぱが多いですが、次第に巣材が枯れて茶色くなってきます。
夏には緑の葉っぱの中に緑のボールが見つけづらく、冬には植物が枯れて全体が茶色くなることと、茎が倒れて地上に落ちてしまうので見つけにくくなります。
探すなら、晩秋くらいがちょうど良いでしょう。ひとつ見つかると、周辺に別の巣があることが多いです。
見つけた球巣のひとつをしばらく静かに観察していると、ごそごそと巣が動いています。中にネズミがいるようです。
じっと待つこと1時間半、ようやく巣材の間から一瞬だけ顔をのぞかせました。
カヤネズミ

カヤネズミは頭胴長 54~79mm、尾長 47~91mm、体重 7~14gと本当に小さいのです。すぐに見失ってしまいました。
巣作りに関しては神経質な一面もありますが、野焼きや草刈など派手に草地の管理をされても、冬は地上付近で過ごし、また翌年には巣を作って繁殖するたくましさもあります。
とはいえ、近年は農家が利用する茅場も減少したり、放棄草地となっていたエリアが宅地化したり、乾燥化してセイタカワダチソウだらけになったりと、生息環境そのものが減少しつつあります。少しでも彼らが安心して生活できる環境が残ることを祈っています。

両生類・爬虫類、哺乳類担当 釣谷洋輔

 

中間貯蔵施設、福島の「いま」

雨の中間貯蔵施設

先日、日本環境アセスメント協会の野外セミナーに参加し、福島第一原子力発電所の周囲に展開された中間貯蔵施設を見学する機会に恵まれました。
福島県内の除染作業は2018年3月に完了し、県内各地に仮置きされた除去土壌や廃棄物は現在、中間貯蔵施設への搬入作業が急ピッチで進められています。この中間貯蔵施設は、福島第一原子力発電所を取り囲むように整備され、面積は実に約16k㎡、東京で言うと中野区より少し広いくらいの広大な面積です。
見学当日はあいにくの雨のなか、除去土壌などが入った黒い袋「フレコンバッグ」が果てしなく積まれる保管場や、これらを分別・処理するための真新しい建造物などを、バスの中から見学しました。「施設」というとなにがしかの建造物群を思い起こしますが、現状ではほとんどは除染で発生した除去土壌などの一次保管場所が占める無機質な光景です。

バスの車窓からのぞむ黒いフレコンバッグ群

バスの車窓からのぞむ黒いフレコンバッグ群


もつれあう有機と無機

いっぽう、敷地内にはまだ手がついていない空き地や農地、家屋もあり、無遠慮に生い茂った草木が覆う様子は、かつて人々の生活の場だったことを思い出させ、ハッとさせられます。失われた景観の要素であった草木が行き場を失いつつも、場違いなほどの生命力で古い景観の名残を飲み込んでいく有機と、じわじわと拡がる無機。これらが奇妙に入り組んで配置される様子に、時空が歪んだような不思議な感覚を覚えました。

 

福島と東京の「いま」

現在も環境省は、該当地域の用地取得のため、地権者の方々と交渉を進めています。この地に暮らしてきた人々の土地への思いは、せいぜい2,3世代前に地方から出てきて首都圏に暮らす私たちには想像が及ばない重さがあると思います。それを除染土壌や廃棄物の置場として提供するよりほかなかった無念はいかばかりでしょうか。
あの発電所が、福島県の人たちのためでなく、首都圏に電力を供給するために作られたものであったことが、とてもとても重く心にのしかかります。あの事故が、この地域の人たちから日常と、代々根を下ろして生活を支えてきた土地を奪い、その人生は決定的に変わってしまいました。いっぽう、あの事故のあと、あの発電所のエネルギーを享受して、首都圏に暮らしてきた私たちの生活は変わったでしょうか。首都圏で活動する多くの企業は、変わらず経済成長を目指してエネルギーと資源を消費し続けています。本当にこれでいいのでしょうか。

 

エネルギーと資源の消費を意識した企業活動のあり方

3.11以来、個人としてはエネルギーや資源の浪費について重く受け止めるようになり、社会生活に支障を来さない範囲ではありますが、出来るだけ資源やエネルギーを消費しない生活を心がけてきました。しかし、わが社はどうでしょうか。
当社は社員20名に満たない小さな会社で、消費するエネルギーや資源の量も、日本全体、地球全体からみればけし粒のように取るに足らない量です。収益性や効率を犠牲にしてそれを削減することにどれほどの意味もないかもしれません。しかし今回、福島の「いま」に向き合ってみると、企業活動のあり方を見直すことに、事業規模の大小は関係ないと強く感じました。

 

【参考情報】
環境省 中間貯蔵施設情報サイト:http://josen.env.go.jp/chukanchozou/
福島県 環境創造センター:https://www.fukushima-kankyosozo.jp/

(企画担当 高木圭子)

 

 

松島はなぜ美しいのか

松島の海を臨む

縁あって宮城県は松島を訪れる機会がありました。松島は京都の天橋立、広島の宮島とともに「日本三景」のひとつに数えられる、我が国屈指の景勝地です。島々のむこうの水平線から朝日が昇る様子は、それはそれは、息をのむような美しい光景でした。

松島の景色

しかし高台に立つ宿の窓辺で遠巻きにこの海を一望していた私は、なんとなく不思議な気持ちでいました。そりゃあ、数々の島が浮かぶ海、そしてそこから上がる朝日は美しい。けれど、要は沈降地形の多島海、それが、日本で三本指に入るというほど、どうして私たち日本人の心を惹きつけてやまないのでしょうか。

 

生業(なりわい)が景観に与える彩度

この地を訪れる観光客のご多分にもれず、遊覧船に乗ってこの海にこぎ出してみると、その理由をボディーブローのようにゆっくりと、しかし強く思い知らされることになりました。よく見ると写真にも写っているのですが、松島の海には牡蠣や海苔の養殖場がたくさんあります。水面に養殖筏が整然と並ぶなか、動力がついているのかどうか、というくらいの小さな船がゆっくりと行き来しているのが見えました。牡蠣や海苔を育てるためのなにがしかの作業をしている方たちです。彼らは朝からずっと、波に揺られ、全身に潮風と波音と日光を浴びながら、作業に従事しているのでしょう。
海とともに暮らし、海の恵みを享受して生活している人たちの暮らしぶりの一端が見えたことで、この多島海に息が吹き込まれて彩度が増したように感じられました。先の震災で甚大な津波被害を受けたこの地で、それでも人々は海を愛し、海を生業とすべく、立て直していると思うとなおさらに胸が熱くなりました。

 

豊かな生物多様性がつくり出す景観

沈降地形の多島海の海岸線は複雑に入り組んでいて延長が長く、入江ごとに浅瀬があって河川や沢が流れ込みます。陸域を覆う森は、海を育む栄養素を絶えず生み出しては、川や沢をとおして海に供給しています。つまりここは、命を生み育む力がとても大きい場所なのです。たくさんの海の幸が得られ、たくさんの人々が飢えることも病むこともなく、豊かに暮らせる場所なのです。
太古の昔から、私たちの祖先にとって暮らす場所の生物生産力はとても大きな問題でした。それを直感的に感じとれる能力は、個体や集団の生存確率に大きく関わったことでしょう。そう考えれば、そういう生態系の生産力の高い場所、生物多様性の恵みが豊かな場所、その景観に私たちが惹きつけられ、希望や幸福感を抱き、「美しい」ということばで表現するのは至極当然のことなのかもしれません。

(企画担当 高木圭子)

 

HondaKidsに再び弊社社員登場!

自動車メーカーのHondaさんが運営している子育て家族の応援サイト「Honda Kids(ホンダキッズ)」に、弊社の安藤が登場しています。弊社社員としては、昨年の亀澤に続き2度目の登場です。“「ふしぎ」を見に行こう”というコーナーで、紅葉のしくみについて解説していますので、是非、ご覧ください!
https://www.honda.co.jp/kids/explore/autumn-leaves/?from=kids_pic

Honda Kidsは、親子で取り組める自由研究や子連れドライブに役立つ情報など、家族みんなで楽しめる情報をお届けしているサイトです。この秋、紅葉を見に車に乗ってお出かけしてみてはいかがですか?

環境指標生物では、環境・生物多様性にかかわる企業のCSR活動の協力も行っております。いつでもご相談お待ちしております。

(環境指標生物:企画営業担当)