「この冬いちばんの寒さ」の朝に

冬になると、植物の現地調査は少なくなり、データ整理や報告書作成など、パソコンの前でじっくり作業することが多くなります。

そんななか、久しぶりに千葉の郊外で現地調査があり、とても楽しみにしていたところ、「この冬いちばんの寒さ」の日に当たってしまいました。

霜が降りて、顔面が凍りつきそうになりながら、「ついてないなあ・・」と、自転車を走らせていると、朝日に照らされた、美しいフワフワを発見しました。

霜の溶けた水滴がきらきらと光って宝石のよう。

「キラキラ×フワフワ」は、女の子が大好きな最強コラボレーション!(と思うのは私だけではないはず・・)

こんな風景は、朝早く起きて、霜が降りているからこそ出会えるもの。新宿・神楽坂のオフィス周辺では、まずお目にかかれません。

「やったね!ラッキー」とばかりに、下がり気味のテンションが再び上がるのでした。

ちなみに、このフワフワの正体は、チガヤというイネ科植物の穂(花序)です。(もう種になっています)

通常ならば、初夏に開花・結実し、青々とした風景の中で銀色の穂を揺らすのですが、このチガヤは、おそらく秋の草刈りが引き金となって、こんな時期に開花してしまったのでしょう。

こうした時期はずれの開花を、「狂い咲き」といいます。花芽が準備できている時期に、葉を切り取られると、慌てて葉を出そうとして、一緒に準備されていた花も同時に咲かせてしまうのです。ツツジやサクラなどでもよく見られる現象です。虫に葉を食い尽くされるほか、人間が葉を取ってしまうのも原因なので、「狂い」なんて失礼だけど、ぴったりな表現だなあ、なんて思っています。

雫が朝日に照らされてきらきら光るチガヤの穂

(中村麻祐子)

真冬に蛾の調査

昆虫は自分では体温調節ができない変温動物だから、木々の葉が落ちて冬が到来すると、おおかたの種類は休眠に入り、野外から姿を消してしまいます。だいたい冬に活動する虫というのは、あまり聞いたことはないでしょう。

でも、そんな天の邪鬼が必ずいるもので、この冬の寒い季節にだけ好んで成虫が現れるものもいます。その理由は、天敵の少ない季節をあえて選んでいるとか、冷涼な気候の土地が起源であるとかいわれていますが、どうもまだ定説はないようです。

こうした冬に現れる昆虫の代表格は、蛾のキリガとフユシャクです。11月半ばから3月末までの冬枯れの雑木林に、季節を追って様々な種類が見られます。明治神宮でも、2013年春までの調査で、このキリガとフユシャクはそれぞれ14種と13種が記録されています。

この仲間はほかの蛾のようにあまり灯りには飛んできません。それではどうやって見つけるのか。陽の落ちた暗い林の中を飛び回る蛾を、ヘッドランプの灯りをたよりに捕虫網ですくいとるほか、キリガの仲間は、木の幹に糖蜜を塗っておくと、そこにたくさん集まってきます。

この糖蜜のブレンドには秘伝があるようですが、黒砂糖・酒・酢の3点は欠かせません。明治神宮の調査の際に、ただの思いつきから、配合する酢を中国産黒酢に代えたところ、非常に良い成績を挙げることができました。

キリガが糖蜜に飛来するのは日没直後からで、その後1時間ほどでピークを迎えます。私の経験では、気温が下がるせいなのか、日没後2時間を過ぎると急に飛来が少なくなります。その後も飛来すると思うのですが、早上がりの癖があるのでまだ確認していません。

真冬の蛾類調査風景

画像は、昨年12月10日に実施しした、明治神宮の杜の蛾類調査風景です。この日はなぜか、蛾の飛来があまり多くありませんでした。

画像は明治神宮の一昨年の同時期のもの。中国産黒酢の糖蜜にたくさんのキリガが集まっています。

もう一つの画像は同じ明治神宮ですが、昨年の同時期のもの。中国産黒酢の糖蜜にたくさんのキリガが集まっています。

(新里達也)

新しい年を迎えて

明けましておめでとうございます。

新しい年を迎えて良いことは、夢や目標を臆面もなく語れることです。年賀状にもありますね。旧年中は果たせなかったけれど今年こそ、なんていう話です。私もよく書くので、その気持ちはわかります。

師走の頃は、頼まれごとや溜まった仕事で身動きも取れなくないでいたのが、除夜の鐘の音とともに、だんだん身軽になっていく。旧年と新年の境の少しの間だけ、数多の雑事をご和算にする爽快感。世俗のしがらみから逃れる解放感。錯誤と知りつつも悪くない気分です。

もっとも年が改まるくらいで、凡人が生まれ変われるはずがありません。溜まった仕事が減るわけもない。正月休みが明ければまた、現実が待っています。では、年が改まるとはどういう意味を持つのか。

とかく私たちは日常に埋没していて、自分の立ち位置を見失いがちです。第三者の目で客観視することができない。だからこそ、節目を迎えるたびに過去を振り返り、気持ちを新たにすることが必要なのです。そんな当たり前のことを思いながら、この新年を迎えています。

今年の3月で㈱環境指標生物は30周年を迎えます。歳月の重みは確かにありますが、気づいたらそれだけ経っていた、というのが正直な感想です。ただ30年続くというのは伊達でなく、会社の姿勢に間違いがなかったからだと信じています。これからも、慢心することなく常に高みを目指し、良い仕事をしていきたいと思います。

今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 (新里達也)

お知らせ

当社が調査にかかわった、鎮座百年記念第二次明治神宮境内総合調査のようすが、下記のテレビ番組にて放送されます。

「完全版 明治神宮 不思議の森」
NHK BSプレミアム 平成28年1月2日(土)午後9時00分~午後10時30分

番組ページはコチラ!

平成27年5月にも放送されましたが、今回はその拡大版となります。
是非、ご覧ください!

環境アセスメント学の講義

12月10日、縁あって大阪府立大学の「環境アセスメント学」の1コマで、実務者として教鞭をとらせていただきました。

環境アセスメント学

私たちの仕事の大半はフィールドワークですが、履修している環境共生科学課程の学生さんたちはフィールド系ばかりではないので、どんなお話をしたものか少し悩みました。環境に関われる仕事はたくさんあるのに、フィールドワークができないことが弱みのように思われては本意ではありません。

講義では、「環境アセスメント」という枠組のなかだけで自然環境の保全を実現するのには多くの困難が伴う、という実務者ならではの視点の話もしたので、がっかりしてしまった学生さんもいるかもしれません。でも、学校でいい成績を修めたり、希望の会社に就職を決めたりするより、ずっとずっと困難なことは、環境畑に限らず、社会に出れば必ず、たくさんあります。

失敗しても失望しても続けていける「好きなこと」が、私はたまたまフィールドワークでした。学生さんたちには学生さんたちの「好きな畑」を見極めてもらって、そこから、豊かな自然環境を次の世代に残していくことに、失敗しても失望しても、しぶとく働きかけていってほしいと思います。むしろ、いろんな立場の人が力を合わせて多方面から取り組むことで、いままで見えなかった解決の糸口がみつかるかもしれません。今回の講義ではそんなメッセージを込めたつもりです。

(高木 圭子)

水槽内の住人

季節は寒い冬に突入し、つくづく冬眠する生きものに産まれてくればよかったと思う今日この頃です。そこで、今回は屋内の話題を。

東京支社の玄関には、数本の水槽が並べられています。本来、企業の玄関や応接室には、色とりどりの熱帯魚が群泳する水槽がインテリアとして置かれるケースが多いのですが、弊社の場合は若干状況が異なります。

現在、弊社の水槽内を泳ぐ主なメンバーは、魚類調査時に採集された、再放流するのは気の進まない金魚や外来魚(もちろん特定外来生物以外です)、同定が可能な大きさになるまで育てている稚魚たち、標本用に持ち帰ったものの愛着がわいてしまいそのまま飼い続けているヨシノボリ類などなど、少々マニアックです。

なかでもタイリクバラタナゴやカラドジョウ、カワムツ(関東では国内外来種)といった外来種は、魚類調査を実施するたびに水槽内に増えつつあります。一般に、外来種の存在は地域の生物多様性を劣化させる要因となりますが、弊社の水槽に限っては図らずも多様性を高める要因となってしまっております。

そんな水槽内の住人を、東京支社にお越しの際は、是非、ながめてあげてください。

あと、くれぐれも飼育魚は野外に放さないようにしましょう。

玄関前の水槽

(東京支社・飼育係)

目陰

「イタチノマカゲ」という言葉をご存じでしょうか。

辞書を引くと「鼬の目陰」とは、

《イタチが人を見るときに前足を目の上にかざすという俗信から》疑わしげに人を見るようすと書かれています。

人もまぶしい物を見るときや、遠くを見渡すときに手を額にかざします。

実際にイタチが前足を目の上にかざすか否かは、定かではありませんが、

周囲の状況を確認するために、時々後ろ足で立ち上がる行動をとります。

「敵はいないか?」「食べられるものはないか?」

「おや?土手の上に人影が・・・」「何だかこっちをみているな」

「まさか、撃たれやしないよな?」といぶかしがるようすが、そんな俗信を生んだのでしょう。

イタチは疑り深い反面、好奇心が強い動物です。

冬の夕暮れ、渡良瀬湧水地の土手でみかけたイタチも、

何度も何度もこちらを窺いながら徐々に遠ざかって行きました。

イタチの目陰

両生類・爬虫類、哺乳類担当 釣谷洋輔

技術交流会で発表しました

植物調査・環境教育担当の中村です。

12月4日、「NPO法人野生生物調査協会」のシンポジウムがありました。このNPOは、当社をはじめとする複数の生物調査会社が運営しており、年に1回、技術交流会としてシンポジウムを行っています。今回、話題提供者のひとりとして発表させていただきました。

発表の様子。トップバッターで緊張しました。

発表の様子。トップバッターで緊張しました!

発表内容は、「市民参加調査を通じた普及啓発」について。私は、調査が主な業務であるこの業界にあっては「異端児」で、一般の方を対象とした観察会や講習会などの環境教育を主な仕事としてきました。

発表後、参加者と話をする中で、まだまだ普及啓発の仕事はあまり多くないけれど、業界として重要な分野だと改めて感じました。

普及啓発を行ううえで大切なのは、新しい「視点」を与えることです。

わたしたちは、ある意味、ふつうの人とは違った視点で、世界を見ています。普通に歩いていても、ふと生きものに目が行きます。その場所は、「生きものにとってどんな環境なのだろうか?」と、つい考えてしまいます。生きもの調査のプロとは、そうした「視点」を持って、調査を行い、わかったことを報告書に表現していくのです。

そんな「生きものを見る視点」を持っているわたしたちが発信できることは、星の数ほどあるはずです。わかりやすく、面白く伝えるには、工夫や技術が必要ですが、ネタがたくさんあるということは、本当に面白いことだと思っています。

(中村麻祐子)

 

明治神宮で蛾の調査を再開

「鎮座百年記念第二次明治神宮境内総合調査」は、2013年秋の報告書の出版と日本学術会議シンポジウムの開催でいったん終了しましたが、調査を担当した当事者たちの情熱はそう簡単に冷めるものではありません。私の専門性からいえば、昆虫類に調査不足の負い目があって、たびたび比較される皇居の水準に追いつきたい、できれば追い越したいという思いが強く残りました。

とくに蛾の仲間の確認種数が150種と少なく、この数字は皇居の記録630種の1/4にも及びません。皇居の調査は5年以上を要しているので、明治神宮の僅か1年の調査と比較すること自体に無理があるのですが、そうはいっても記録は記録。明治神宮の蛾は皇居の半分しか知られていないという事実に変わりはありません。

そこで特別に許可をもらい、この蛾の仲間について2014年秋から調査を再開しています。この調査には、日本蛾類学会会長の岸田泰則さん、それから日本有数のヤガ類の研究者である枝惠太郎さんが参加されています。言いだしっぺの責任として、私もほぼ毎月のように同行しています。

灯火採集は闇夜に近い暗い夜ほど成績が良いのですが、不夜城の都会の夜空は思いのほか明るく、灯火採集の白幕に飛来する蛾の数は多くありません。そうした苦戦を強いられながらも、調査回ごとに少しずつ記録が更新されていくのは、私たちの励みと楽しみでもあります。

(新里達也)

参道脇にいたオオミズアオ

参道脇にいたオオミズアオ

灯火採集の風景

灯火採集の風景