初夏のにおい

伊予ヶ岳から望む南房の山肌

5月初旬に、南房総へ行ってきました。初夏を思わせる陽気のなか、伊予ヶ岳から望む南房の山肌は、椎の花の鮮やかな緑でいっぱいでした。図鑑の情報では5月下旬~6月が花期とされている椎類は、早くも満開を迎えていたようでした。今年の春は例年よりも2週間以上早いようです。

椎の花をこのように遠くから眺めると、とても美しいですが、この椎の花が話題に上げられる時は、だいたいその強烈な匂いについてです。

気になって、ちょっとウェブで調べてみたところ、やはり好印象に書かれることは稀なようで、基本的に「くさい」と形容されるようです。極端な例だと、花の匂いに加え、落ち葉や枝張りなどが原因で、隣人問題に発展し、裁判沙汰になったケースもあるようです。また、ウェブ上で見つけた椎の花の臭いに対する表現のなかで、最もひどいものは、「重苦しい病み疲れたような匂い」と書かれていました。とにかく、嫌な匂いというのが世論のようです。

何を隠そう私も昔はこのにおいが苦手でした。しかし、今では「爽やかな初夏の香り」と感じるようになったのです。そう感じる背景には、恐らくこの香りの正体を知ったからだと思います。あの香りは虫を呼ぶための、つまり繁殖のための大切な香り。多くの生きものがこの香りに関わっているのでしょう。季節の移ろいを鼻で感じ、生きものの営みに思いを馳せると、「くさい」と思っていた匂いでも、爽やかに感じられたのかもしれません。または、単純に鼻の機能が加齢によって鈍化したのかもしれません。皆さんも嫌いなにおいの正体を探って、克服してみてはいかがでしょうか。

植物担当kk

 

安全教育講習会2018

4/20(金)に、NPO法人野生生物調査協会主催の安全教育講習会に行ってきました。これは、毎年、本NPOの運営に関わっている生物調査会社数社の新入社員を対象に、野外調査時における危険生物からの身の守り方や対処法などを学ぶために行われるもので、昨年度の仙台に続き、今年度は静岡で開催されました。今回は弊社からの受講者はいませんでしたが、私は講師役としてちょいと小話をしに行ってきました。

クマやハチ、ダニ、毒ヘビなど、野外調査時にはさまざまな危険生物に遭遇する可能性がありますが、それらの危険生物について我々講師陣が体験談等も踏まえつつ講習を行いました。また、南海トラフ巨大地震の被害が想定されている静岡での開催ということもあり、講習会に先立って、静岡県地震防災センターの見学会も行いました。参加された方々は、皆、熱心に講習に耳を傾けていたのがとても印象的でした。今回の講習で学んだことを活かして、優秀な技術者になって欲しいと心から願っております。

静岡日帰りという強行スケジュールでしたが、ちょっとだけ早い新幹線で現地入りして足を運んだ駿府城のお堀では、たくさんのコイやソウギョ、アカミミガメを眺めることもでき(外来種だらけ)、忙しいながらも徳川家康が晩年を過ごした地の空気をしばし堪能することができました。

東京支社:川口

講習会のようす

講習会のようす

駿府城のお堀

駿府城のお堀

コイとソウギョ

コイとソウギョ

カタクリのミステリー

東京都薬用植物園の早春のにぎわい

つい先日、新年のごあいさつをアップしたと思っていたのに、気がつけばもう春分もすぎていました。年度の変わり目のこの時期は、仕事に忙殺されがちな私たちですが、生きもの屋として、春の訪れもまた、逃すわけにはいきません。そんな焦りに背中を押され、週末に自宅近くの「東京都薬用植物園」に行ってきました。一角に「武蔵野の雑木林」と呼ぶにふさわしいきれいなコナラの林があり、一面にカタクリが咲き、ほかに、シュンランやスミレ類、ヒトリシズカ、イカリソウなども花盛りでした。早春の日差しが地表面を暖め、林の主役たる樹木が目を覚まして葉を広げるまで、この束の間のエネルギーを利用して咲き乱れる花々で、早春の雑木林の林床はとても華やかなのです。

カタクリ

 

武蔵野の雑木林にカタクリが群生するミステリー

さて、地面を覆いつくさんばかりのカタクリの花々をみて、植物屋のはしくれであるワタクシは、ふと思いました。カタクリの種子はアリにより散布されますが、その距離は1世代で1mに満たないと言われますから、年一回の繁殖でも1km分布を拡げるには1000年以上かかる計算です。実際には、カタクリは発芽から開花まで数年かかるので、その数倍かかるでしょう。しかも、種子が移動した先も同じ環境でなければ、それ以上分布を拡げることは適いません。

いっぽう、カタクリが生育するいわゆる「雑木林」が武蔵野に成立したのは、江戸時代に用水が引かれて人が住めるようになってからといいますから、「武蔵野の雑木林」の歴史は意外と浅く、せいぜい数百年でしょうか。にもかかわらず、このように林床をきれいに下刈りされた武蔵野の平地林でカタクリをみることはそれほど珍しくありません。さて、これはいったい、どうしたことでしょう?

真相は、よくよく調べないといけないことですが、そうですね。こんなふうに春の訪れをドラマチックに演出してくれるカタクリです。こんな光景をみたら、「どれ、うちの裏山にもちょいとひと株」という人がいても不思議はありません。そういう行為の是非を問うのはまたの機会にするとして、結果として、カタクリはまんまと、武蔵野の雑木林にいてもおかしくない種、管理の行き届いた雑木林を指標する種のひとつとして、なんとなく地位を獲得しているのかなと思っています。

 

貴重種か、外来種か

もともと生育していなかった地域に人の介在で分布を拡げた種は「外来種」として歓迎されない場合も多いですが、その罪の深さは持ち込まれた時期と、移動した距離によるようです。武蔵野のカタクリがいつ頃持ち込まれたものか、ちょっとよく分かりませんが、ここ20-30年ということはなさそうです。また、平地のものは明らかにアウェイですが、丘陵地の北向き斜面の谷沿いなどに生育しているものは、氷河期からの生き残りといわれますから、すぐそこの狭山丘陵や多摩丘陵では、少なくとも一部はホームといえそうです。

こんな風に、地域のレッドデータブックに掲載される「貴重種」と呼ばれるような種であっても、その起源を突き詰めると、どう評価したものか、私たちプロでも悩ましいものが結構あります。ひとくちに「貴重種」とか「外来種」とか言っても、その線引きは意外と曖昧なものなのです。

(企画担当 高木圭子)

 

春の雪山

以前の投稿から、3ヶ月以上が経ちました。はやいものですね。桜も満開となり、意気揚々とブログ再開です。

今回は植物担当KKが、なぜだか昆虫の記事として筆をとらせていただきます。

さて、皆様ご察しのとおり、この業界は年度末になると、様々な業務が仕舞いにむけて、お祭りのように忙しくなります(ブログ更新ができなかった言い訳)。それがひと段落すると、バタバタと休んでいく社員が散見されます。そうやって、次年度への鋭気を養うのであります。そこで私は、魔の山として名高い谷川岳へいってきました〰。

谷川岳は遭難者世界ワースト記録を持つことから、魔の山と呼ばれているのですが、ロープウェイで気軽に森林限界近くまで行ける山でもあるのです。まだ雪がたっぷりと残る早春の谷川岳で春の訪れを感じてきました。

谷川岳

この日は山頂(1,977m)でも10度近い気温でした。そんな暖かい日に、雪の上を歩いていると、普段あまり気にとめていない昆虫達が目に付きます。暖かくなって、動き出しているのですね。わくわくします。

ヒメバチ科の一種

長い触角をヒョロヒョロさせて歩いており、体長が子指の先程あるので、よく気づくのがこちら、ヒメバチ科の一種です。ヒメバチ科のグループはとても大きなグループなので、画像だけでの同定は難しいのです。あしからず。

 

タケカレハ

続いてこちらは、タケカレハ(Euthrix albomaculata directa)の幼虫と思われます。タケカレハはササ類を好むので、雪が溶けて顔を出したササ草地の中から出てきてしまったのでしょう。寒そうですね。あまり動けないみたいで、このあと彼は生涯を全うする(成虫になって子孫を残す)ことができるのでしょうか?人生はハプニングの連続ですね。

 

クロカワゲラ科の一種

こちらはクロカワゲラ科の一種で、今回雪の上でもっともよくみられた種でした。羽根のデザインがかっこいいですね。登山用品などによくつかわれているナイロン素材X-Pac VX07に似たデザインで、私好みです。

 

エグリヒメカゲロウ

こちらはエグリヒメカゲロウ(Drepanopteryx phalaenoides)。羽根の後部がえぐれているので、エグリ・・・。せっかく枯れ葉に擬態しているのに、雪の上ではまるで逆効果で、とても目立っていました。寒さで動きも遅いし、捕食者にとっては格好の餌食ですね。

 

マツヒラタナガカメムシ

最後はこちら、マツヒラタナガカメムシ(Gastrodes grossipes japonicus)。普段はマツの樹皮で生活しているようです。アカマツやクロマツに付いていることが多いようですが、ここは森林限界ですので、ハイマツやヒメコマツにでも付いていたものが飛ばされたのでしょうか。道中見かけたのはこの1個体だけでした。彼は寒そうで、動きも鈍く、「自ら望んでここに来たのではない」と言っているようでした。

谷川連峰の厳しい冬に耐えて、やっと訪れた春です。逸る気持ちを抑えきれずに出てきてしまった昆虫たちのようにはならないよう、我々はしっかり準備をして元気に新年度を迎えたいと思います!

以上、谷川岳雪上昆虫観察の報告でした。

(環境指標生物ひとり登山部kk)

新年明けましておめでとうございます。

清々しい新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。

みなさま初詣はお済みでしょうか。今年は、自宅からすぐの氏神様にごあいさつしました。ここは、普段は無人の小さなお社ですが、境内はいつもきれいに掃き清められていて、欄間に精緻な彫刻が施してある小さな拝殿と本殿、更にちいさな祠がふたつあります。こんなふうに常駐する人もなく、小さいけれど小綺麗な神社が大好きです。

神社の写真

家を建てれば建てただけ、年収の何倍ものお金を投じて移り住む人がいる東京の北多摩地域で、こんな見晴らしのよい「ハレ」の土地に、美しい建物を建て、維持管理し、あまつさえ大きな樹木が葉やどんぐりを道に落とすのを許し、掃き清める。営業職の悲しい性でその経費や人件費のそろばんをはじけば、古くから営々と注がれてきた労力とエネルギーの膨大さに圧倒されます。なんのために私たち日本人は、お金にもご飯にもならない神社を守り続けるのでしょうか。

神社に祭られる日本の神々は数多いて、慈愛に満ちた神もあれば理不尽な神もあり、相互に関わりあって吉凶様々な事態を巻き起こします。その様子は、多様な動植物が複雑に関わり合って環境を生み出し、支え、時に恵みを、時には災いをもたらす生態系、生物多様性そのもののように私には思えます。生物多様性の恵みを享受して生活してきた先祖たちの、生物多様性に対する感謝とおそれの気持ちが、神社を生み守ってきた、そして今も守られているに違いないと思うのです。

私たちが日々職務の対象としている「生物多様性」の認知度は、愛知でCOP10が開かれた2010年以降減少傾向で、2020年までに認知度75%という生物多様性国家戦略の目標達成にはまだ課題が多いと言われています。けれど、このように地域の神社が大切にされているのをみるにつけ、「生物多様性」という新しい言葉はさておき、そのものを敬いおそれ尊重する気持ちは、私たち日本人の遺伝子に脈々と受け継がれているに違いない、それをちょっと思い出せばいいだけだと思うのです。その、ちょっとのフェイズ転換のようなものの鍵を求めて、今年も人と生きものと向き合っていきたいと気持ちを新たにしています。

本年もどうぞよろしくお願いします。

(企画担当 高木圭子)

仕事納め

クリスマスも終わり、平成29年も残すところあとわずかとなりました。弊社は本日が仕事納めです。(まだ仕事が終わらない人、現場に出ている人もいますが。。。)

今年も忙しい1年となりましたが、大きな事故も無く、おかげさまで無事に年を越すことができそうです。年末年始、くれぐれも飲み過ぎないようにし、リフレッシュして新たな年を迎えたいと思います。

納会

というわけで、納会が始まりました。虫の話をはじめ、相変わらずマニアックな話題で盛り上がっています。

最後に本年も大変お世話になりました。新年も何卒宜しくお願いいたします。

環境指標生物HP係

スジボソギンヤンマを採集!

ギンヤンマとクロスジギンヤンマの雑種、通称『スジボソギンヤンマ』を採集しました。

採集日は2017年9月10日、採集地は宮城県岩沼市の海岸にある池沼で、岸辺の路上を飛翔しているところをネットインしました。

一見クロスジギンヤンマに似ていますが、翅胸側面の黒色条(クロスジの形質)が細い点、頭部の額にみる黒色と青色の平行に走る斑紋(ギンの形質)とそれに垂直に交わる黒い斑紋(クロスジの形質)が混在する点、脚の腿節が褐色を帯びる点(ギンの形質)、腹部に水玉模様を持つ点(クロスジの形質)など、観察すると2種の形質がモザイク状に発現していることがわかります。

雑種ゆえに、2種の形質の発現のしかたには個体差があるようで、上記の特徴は必ずしも全てのスジボソギンヤンマに当てはまるものではないようです。どちらの親の血が濃いか、比較するのもこうした雑種個体の楽しみ方の一つではないでしょうか。

このスジボソギンヤンマですが、雄は繁殖能力を持たない一方で雌にはそれがあるらしく、種概念に対する一つの反例と捉えることができそうです。

参考文献;尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012)『日本のトンボ』文一総合出版.

東京支社 太田祥作

初秋の賑わい

前回の記事からブログが更新されないまま1ヶ月以上が経ってしまいました。8月も今日で終わりですね。カブトムシやクワガタなどはそろそろ数が少なくなりますが、これからは水辺が楽しい季節です。晩春から夏にかけて幼虫時代を過ごしてきた水生昆虫が次々に羽化を始め、どんどん賑やかになってきます。

コガタノゲンゴロウ

写真は福岡県の某所でみられたコガタノゲンゴロウです。全国的に激減し、本州に現存する生息地は数えるほどしかありませんが、ここ数年のあいだ、なぜか四国や九州では大発生しています。先週、出張で訪れた現場からほど近い山あいの池にタモ網をいれたところ、10分程度でこのとおり。少し環境の良いところへ足をのばせば、おびただしい数のコガタノゲンゴロウを観察することができます。昔は関東でもこんな光景がみられたのでしょうか。コガタノゲンゴロウは、現在、環境省レッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類にランクされている貴重な水生昆虫です。是非とも大切にしたいものです。

コガタノゲンゴロウ頭部

東京支社・昆虫担当 菅谷

 

 

長年の酷使

ここ最近、なんだか器材の故障が立て続けに起きました。長年使っていた流速計が突如逆流した値を示したり、水質計がpH0.25ていうとろけそうな値を示したり。。。

先日は、ゴムボートの動力として活躍していた電動船外機が、突然、漏電・ショートして、煙を出して止まってしまいました。吹雪のダム湖や灼熱の印旛沼などなど、10年以上にもわたって常に全力疾走で酷使し続けてきたので、無理もないのかもしれません。

というわけで、現在、器材の修理や新規購入に追われるなど、忙しさに輪をかけております。まあでも、自分の身体に故障は無く、元気に調査に出られているのは、なによりです。(たまに、頭の回線が漏電・ショートすることはあります。)

下の写真は、先日、新たに買い替えてもらったデジカメで撮影してみたウグイです。まだ、あまり使い慣れておりませんが、これから、陸上や水中など、様々な環境で酷使していこうと思っております。

ウグイ

水生生物担当:川口

いつの間にやら

長年、水辺で調査をしていることもあり、これまで数々の“いつの間にやら”を見てきました。

マシジミだと思っていたら“いつの間にやら”タイワンシジミに代わっていたり、ナミウズムシだと思っていたら“いつの間にやら”アメリカツノウズムシに代わっていたり、トウヨシノボリ(当時の呼び方です)だと思っていたら“いつの間にやら”カワヨシノボリに代わっていたり、ヌカエビだと思っていたら“いつの間にやら”カワリヌマエビ属に代わっていたり。

これらはすべて、在来種だと思っていたら“いつの間にやら”よく似ている外来種に代わっていたというお話です。(当時、うっかりトウヨシノボリとして報告しようとした個体が、直前になって誤同定に気づき、カワヨシノボリに修正したような記憶が。。。「関東で突然カワヨシとか出るのホント辞めて欲しい!」って今でも根に持っています。)

先日は、利根川水系の某所で、スジエビに似た外来種(Palaemonetes sinensis ;下の写真)がたくさんいるのを見つけてしまいました。ここ最近、関東近辺での調査時にしばしば確認はしていたものの、まとまった数の個体を見たのは初めてかもしれません。(しかも抱卵しているし!)  これもやがては、上記と同様、在来スジエビだと思っていたら“いつの間にやら”外来スジエビに代わっていたり・・・、の1つの例になってしまうのではないかと危惧しております。

外来性スジエビ近似種Palaemonetes sinensis

外来性スジエビ近似種 Palaemonetes sinensis

今、巷で話題になっているアリゲーターガーなどと違って、一般には認識しづらいこうした「いつの間にやら系外来種」について、正確に存在を把握し伝えていくことも、われわれ調査屋の大事な仕事のひとつとなっております。

水辺担当:川口(いつの間にやら勤続17年)