分断に抗う

 8月に入ると、私たち日本人は否が応でも戦争について考えさせられるものです。それが、隣国ロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにした今年ならば尚更に思われます。
 戦争を知らずに生まれ育った私は、そうは言ってもこれまでは結局、自分を取り巻く世界ができるまでの「歴史」としてしか「戦争」を認識してこなかったのかもしれません。しかしそれが、私たち人の「現在進行形の業」として一部終止を見せつけられた戦慄を、どう表現したらいいのかわかりません。考えてみればそれは、世界のどこかでは途切れることなく続いてきたというのに、不誠実な無関心があったことは否めません。今世紀に入ってから始まったものだけでもWikipediaには32件の戦争がリストアップされ、そのうち12件が現在も継続しているとされています(※2)

ひまわり画像
ウクライナのイメージが強いひまわりですが、ロシアも主要生産国です(※1)
 どちらの国にも等しく、私たちと同じ生活者があることを忘れたくないものです。
ウクライナのイメージが強いひまわりですが、ロシアも主要生産国です(※1)
どちらの国にも等しく、私たちと同じ生活者があることを忘れたくないものです。

【なぜ人は戦争をやめられないのか】
 犯人捜しや非難の応酬に陥ることなくこの問いを突き詰めてみると、それは「なぜ人は環境破壊をやめられないのか」と同じところに根ざしているように思えます。本来大多数は、平和と幸福、周囲との協調、子ども達の繁栄を願う素朴な生活者であるはずの私たちが、善意をもって真摯に取り組んだことであっても、それが巡り巡って他の誰か、あるいは私たち自身の首を絞めていることがあります。
 例えば、日本の年金資産を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、ロシアも使用したというクラスター爆弾を製造する企業に投資していたというニュースは、まだ記憶に新しいところです(※3)。家族や将来のためにひたむきに働いて積み立てた年金が、世界のどこかで爆弾の開発・製造を支える資金になっていました。また、あらゆる電子機器に使用されるレアメタルの産地であるコンゴ(※4)、高品質の綿花を産する新疆ウイグル自治区(※5)など、私たちの暮らしを支える身近な資源、その産地を舞台にした紛争や人権問題は、世界中で枚挙にいとまがありません。環境問題にしても同じで、私たちが職務を果たすなかで消費する紙のために、世界中の木材が切り出されたり、当たり前の清潔や食生活を支えるパーム油の大量生産が、熱帯雨林を消滅させていたりします。
 グローバル化とセクターの細分化により、全貌が見えない巨大な歯車の集合体となった社会システムのなかで、しのぎを削らされているうちに、いつの間にか戦争や環境破壊に加担させられている現実があります。それは「風が吹けば桶屋が儲かる」というくらい回りくどい因果関係だったり、地球の裏側のような遠い場所で起きていたり、何年も経ってから影響が出たりするので、日常的に意識するのがとても困難です。また、こうした私たちの日常の加害性に思い当たったとして、それを今きっぱりとやめてしまうには、私たちの暮らしはこの巨大な社会システムへの依存度が高すぎます。電子機器や紙、パーム油を消費することも、年金を納めることも、自分ひとりの意志ですぐにやめることはもはや、社会の一員として許されないのが現実です。これはもう社会の仕組としての業としか言いようがありません。

【社会システムという魔物、分断という呪縛】
 近代以降も含めた歴史が示してきたように、人が作り上げた社会システムというものは、絶えず改善を要するものであり、今もまだその途上であることは疑いようもありません。しかし、不完全なままに極限まで肥大した現代の社会システムは、もはやそれ自体が生きもののように振る舞って誰の意志通りでもなくなり、被害者だけでなく加害者までもが絡め取られて自由を失っているように感じます。この社会システムの肥大は、その構成員としての個の力を相対的に矮小化するに留まらず、あらゆる局面における「分断」により、さらに無力化させてしまいます。
 元来、人は協力し、力を合わせて社会を築いてきました。しかし現代の社会システムは、「切磋琢磨」と言えば耳あたりがいいですが、実際には互いにしのぎを削り、パイを奪い合うようにできています。分断は人を孤立させ、無力感と不安がさらに分断と対立を加速させます。核家族化、地域社会の空洞化、地方と都市、格差社会、全てが分断の要因であり結果でもあります。この強いられた分断こそが私たちひとりひとりの協調・連携する力を奪い、利害の調整を放棄させ、盲従することによって社会システムの暴走を許しているように思われます。

【頑固なまでに「協調」を武器に】
 このように考えてみると、問題は根深く、強いられた分断のなかで私たちができることは限られているようにも思われます。しかし、私たちはこれからも、この分断に抗い、その垣根を越えて、あらゆる主体との協調と連携によって課題を解決していくことに、頑固に拘っていきたいと考えます。これまではそれが、激動の時代の荒波に飲まれないためのひとつの重要な戦略と考えてきました。しかし、ウクライナ侵攻と、それを契機に世界を席巻する不穏な渦を目の当たりにした今では、協調と連携こそが、この渦に逆らい、協調が協調を呼ぶ連鎖によって、巡り巡って環境保全や反戦にも繋げていける行動原理であると信じています。

(代表 高木圭子)

※1 サンフラワーシード(ヒマワリの種)の産地・生産量ランキング【世界】(食品データ館)
https://urahyoji.com/crops-sunflower-seed-w/

※2 戦争一覧(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%A6%E4%BA%89%E4%B8%80%E8%A6%A7

※3 年金運用のGPIFがクラスター弾製造企業に投資 ロシアも使用した非人道的兵器(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/168793

※4 ノーベル平和賞が問いかける紛争鉱物と日本の関係 コンゴの人権危機と日本の消費者とのつながりを研究する(東京大学)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z0508_00037.htm

※5 特集 新疆公安ファイル(毎日新聞)
https://mainichi.jp/xinjiangpolicefiles/