形を変えて適応する水田雑草、キクモ

 梅雨が明け、夏も本番になると、棚田のような田んぼでは稲だけではなく、水田雑草も育ってきます。田んぼは、水が張られている状態もあれば、中干しや落水による乾燥もあるため、植物にとっては特殊な環境です。水田雑草はどのようにして田んぼに適応しているのでしょうか。水田雑草の1つ、キクモを例にご紹介します。

気中葉を広げたキクモ
気中葉を広げたキクモ

 キクモは、田んぼが乾燥しているときは、葉の幅が広い「気中葉」をつけますが、水が張られて水中に沈んだ部分は、葉の幅が狭い「沈水葉」をつけます。気中葉は、葉を乾燥から守る表皮のクチクラ層が発達し、空気中でガス交換をするための気孔が分化しています。一方、沈水葉は、表皮のクチクラ層が発達せず、葉肉細胞も数層しかなく、気孔も分化していません。これにより表皮細胞を通じた水中でのガス交換を容易にし、薄い葉で弱光を効率よく利用しています。このように同じ植物体でありながら、空気中と水中で形や構造の違う葉をうまく使い分けることで適応しているのです。

 しかし、キクモなどの水田雑草は乾田化などにより絶滅が危惧されている地域も多数あるのが現状です。伝統的な田んぼの環境に適応した水田雑草は、こうした田んぼがなくなってしまうと生育場所がなくなってしまいます。さまざまな生き物の生活の場でもある棚田のような田んぼがこれからも維持されることを願うばかりです。

(植物担当:志賀)

※本稿は認定NPO法人棚田ネットワーク様の会報誌「棚田に吹く風」(https://tanada.or.jp/tanadanetwork/backnumber/)に連載しているコラム「生きもの屋の里山考」に寄稿した内容です。(第128号、2023年夏号)