里山にハマるトンボ

 カトリヤンマというトンボがいます。“蚊とり“という名前からつい期待してしまいますが、残念ながらカトリヤンマを観察していると蚊にたくさん刺されます。蚊がいなくなるほど食べている訳ではなさそうです。しばしばユスリカ(刺さない蚊の仲間)の蚊柱をかすめるような飛び方をして採餌するので、そうした行動から名前がついたのかも知れません。
 カトリヤンマは、稲刈りの後、イネの株元や畦などの土中に産卵します。卵は春に田んぼに水が入るとかえります。このとき、代掻きによって土がかき混ぜられることで、卵が土の表面に出て光にあたることが必要なようです。幼虫(ヤゴ)は田んぼの中でミジンコやオタマジャクシなどを食べ、やがて成虫(トンボ)になります。このように、その生い立ちは田んぼの営みによくハマっています。
 しかしながら、田んぼの上を飛んでいる姿をあまり見かけることはありません。成虫はとてもシャイで、ふだんは近くの藪や林で生活しているうえ、早朝や夕方、雨が降りそうなくらい曇った日中など薄暗いときに活動しています。
 里山のトンボの“代表“といえばアキアカネ(アカトンボの仲間)がよく挙げられますが、カトリヤンマも劣らず里山と関わりが深く、目立たないがゆえに通好みのトンボと言えるかも知れません。

畦で産卵するカトリヤンマ

(東京支社:N池)

※本稿は認定NPO法人棚田ネットワーク様の会報誌「棚田に吹く風」(https://tanada.or.jp/news/kaiho133/)に連載しているコラム「生きもの屋の里山考」に寄稿した内容です。(第133号、2024年秋号)