冬の水路になびくカワモヅク

 モヅクというと酢の物にして食べる海藻のことですが、真水に生えるカワモヅクという藻類をご存じでしょうか?
 カワモヅクは湧き水の豊富な河川や水路などに生育する紅藻類で、日本では二十種あまりが知られています。褐藻類である海のモヅクとは分類が異なり、ほぼ食用にもされない藻類なのですが、開発などにより湧水環境が失われつつあることから、ほとんどの種が環境省のレッドリストに掲載され、希少な存在となっています。
 主に田んぼ周りの水路でみられるアオカワモヅクという種は、晩秋に藻体が出現し、冬から春にかけて数センチほどに成長します。そして晩春には次の世代となる目に見えない胞子体を残し、枯れてなくなります。藻体は日当たりのよい水路の石や木杭などに着生することから、草刈りや泥上げなどの維持管理が適切に行われた環境が必要となります。アオカワモヅクも、人の営みによって育まれている里山の生きものの立派な一員ですね。少し寒さを我慢して、冬の水路になびくカワモヅク、是非覗いてみてください。
 ちなみに、現在ではモヅクではなくモズクの表記が一般的で、前述の環境省レッドリストでもカワモズクと表記されています。これは、戦後普及した「現代仮名遣い」によるものですが、今回は本来の語源を尊重し、あえてモヅク(藻付く)と表記してみました。

緑色をした紅藻類のアオカワモヅク(ややこしい)
緑色をした紅藻類のアオカワモヅク(ややこしい)

(東京支社:川口)

※本稿は認定NPO法人棚田ネットワーク様の会報誌「棚田に吹く風」(https://tanada.or.jp/news/kaiho134/)に連載しているコラム「生きもの屋の里山考」に寄稿した内容です。(第134号、2025年冬号)