里山に飛ぶぬいぐるみ

 夏から秋にかけて里山の用水路脇などでよく目にするツリフネソウの花には、ある昆虫がよく訪れます。私の推し虫、マルハナバチの仲間です。地域によって様々な種がみられますが、棚田を擁するような里山で夏に最もよくみられるのはトラマルハナバチでしょう。トラを思わせる黄色と黒のカラーリングでモコモコした毛が生えていて、まるでぬいぐるみのようです。

正面から見たトラマルハナバチのお顔
正面から見たトラマルハナバチのお顔

 マルハナバチは運動に適した体温を一定に保てるため、なんと5℃程度という冬のような低温でも活動できます。このため、朝早くから夕方遅くまで飛び回っています。また、食べ頃の花の位置などを学習して、非常に効率よく沢山の花を訪れることができます。さらに、人を刺すことはめったになく、ヒトの指にとまったりもします。働き者で知性を持った平和主義者、こんなヒトに私はなりたい。
  しかし、近年行われたマルハナバチ国勢調査の結果では、トラマルハナバチの分布は縮小していると推定されました。トラマルハナバチの生息に適した主な環境は、花いっぱいの里山環境です。里山における樹林の管理放棄が分布縮小の一因なのかもしれません。このかわいらしいいきもののことを知ることで、課題多き里山に想いを馳せるヒトが少しでも増えてくれるとうれしいと思います。

(植物担当:kk)

※本稿は認定NPO法人棚田ネットワーク様の会報誌「棚田に吹く風」
https://tanada.or.jp/tanadanetwork/backnumber-2-2-2/)に連載しているコラム「生きもの屋の里山考」に寄稿した内容です。(第132号、2024年夏号)