昆虫針のはなし

昆虫の研究に欠かせない標本を作成するうえで、最も重要なアイテムといえば、昆虫針(Insect pins)です。昆虫標本において、虫体と採集データあるいは同定ラベルなどの重要な情報を繫いでいるのが1本の昆虫針だと考えれば当然のことです。日本の虫屋にとって、お馴染みの昆虫針と言えば、有頭志賀昆虫針ですが、世界的にはヨーロッパの針が標準的に使用されています。志賀針との違いは、長さが2mmほど短く、頭(現在のものはナイロン製)が大きいことです。頭が大きいので扱いやすいのが長所です。さらに志賀針は長いのでヨーロッパ規格の箱では蓋に当たってしまい困るようです。ヨーロッパの針は、今はほぼすべてチェコで作られています。

チェコ製の昆虫針のパッケージ

上の写真はチェコ製の昆虫針のパッケージです。実は虫屋以外の人からこのパッケージに興味をもたれたので紹介します。色々なブランドが存在します。上段左から時計回りに、スフィンクス(ブラックエナメル)、アウステルリッツ(ブラックエナメル)、アウステルリッツ(ステンレス)、MONARCH(ステンレス)、KOSTAL(ブラックエナメル)となります。KOSTALの絵はアレクサノールアゲハ(ヨーロッパに生息)で、これやMONARCHのように蝶などの昆虫が描かれたもの、ヨーロッパの城のような風景のものもあれば、スフィンクスのようになぜこんなデザインにしたのか不明なユニークなものまで様々です。私はアレクサノールアゲハのものが気に入っていますが、皆様はどれがお好みでしょうか?

ブラックエナメルというのは黒針で、材質が鉄で防錆のエナメルでコーティングされた針です。ヨーロッパでは主に使用されていますが、日本では錆びやすいと言って嫌う人が多いと思いますが、私は台紙貼りの標本や、ハエの標本に使用しています。ハエはなるべく針刺しの標本にしたいのですが、小型のものでは細い針(0号以下)を使いますが、細いステンレス針は曲がりやすく、最近のものは、特に弱いです。そこで硬い黒針が向いています。さらに後に虫体がくるくる回ってしまうことも少ない点が評価できます。

現在、ヨーロッパ製の昆虫針はチェコで作られていますが、かつてはドイツやオーストリアで良いものが作られていました。カールスバード(西ドイツ製)やアンテコロー(オーストリア製, 象印)は秀逸な製品として有名でした。今でも、大切な標本にはこれらの針を使うという熱心な愛好家もいます。

昆虫同定担当:F